逢魔の扉を前にして 〜収録談話 好調撮影中 2



週刊少年誌に掲載中の『逢魔の扉』という漫画作品を
アニメではなく実写で映像化しようというドラマ企画が
近来まれという度合いで大ヒットを収めており、
番外編となる長編劇場版も好調撮影中。
ダークファンタジーと言われるジャンルの作品で、
暴虐の力と毒を満たした“咒獣”や、
それらを操る知性持つ、人ならざる負世界の存在からの襲撃へ、
人間世界の祓霊術師らが相対するという仕立て。
映像におけるデジタルな特殊技巧の AIやCGの性能や精度はめきめきと上がってはいるけれど、
そうともなると享受する側も目が肥えて来ており。
演者の動作のぎこちなさなどから、
ああこれってワイヤーや補助があっての擬斗(ぎとう)だなと、
画像処理をあっさり見抜かれることもある。
それでは物語の流れを邪魔しかねないのでと、
この作品では切れのある活劇に長けた顔ぶれを演者に迎えてもおり。
一瞬の隙が命取りになろうよな連打を織りなす対人格闘や
鋼の切っ先の咬み合いから火花散る剣戟も、
実際に対峙しての殺陣をきっちりとこなしたものを収録し、
出来るだけ丁寧に原作上の激闘ぶりを再現するよう心掛けていて。
そこもまた、少年向けの原作だというのに
老若男女を問わぬ勢いで広く支持され、稀なるヒットにつながっていると思われていて。
主に異世界の廣野が舞台背景となるシチェーションも、
スタジオ内に大きく広げたスクリーンへ映し出すことでかなりリアルなそれを再現できるものの、
岩場をよじ登るとか、険しい僻野での戦闘シーンなどは、
実際の山道やら石の切り出し場などへ行って収録したほうが
臨場感も得られていいだろうと、
アナログながらそっちを選んで撮影するケースも少なくはなく。
廃墟巡りや聖地巡礼じゃあないが、撮影中に一般人が紛れてこられても困るので、
どこで…という情報は厳重に秘しているし、
何なら演者の支援者の私有する山だの別邸だのを借り切ってという運びになっているので、
関係者以外は入り込めず、余計な“騒音”が全くないという環境下、
都内のスタジオよりものびのびと活動できるほど。
1週間ほどの逗留でかかるおりなど、ちょっとした合宿のような趣きだったりする。

「どの部屋からも桜が見えますね。」
「ああ。こんな見事なのが植わってようとはな。」

毎日のように花見ができるよなと中也が笑う。
銀幕デビューとほぼ同時という勢いでほぼほぼ海外にばかりいた彼だが、
この1年はずっと日本にいたため、懐かしい年中行事も堪能中らしく、
だが、桜咲く絶景を堪能する花見はまだだったとのこと。
談話室扱いの食堂に居合わせた主役格の4人が
窓辺に据えられたソファーに陣取り、大きな窓から庭を眺めやっておいで。
今回の撮影のためにと用意された貸し切り状態のここは、
監督の後援者で某資産家の別邸だそうで。
少しほど山に分け入ったロケーションがドラマの背景にぴったりと、
実はすでに何度か利用させていただいてもおり。
特に庭がどこぞかの公苑張りの広さがあり、芝生や木々への手入れの良さもそりゃあ見事。
今は数本ある桜があでやかに開花しており、
どの部屋からも花密度の高い枝々がよく望めて圧巻だ。
そして、そんな桜花に湧いている4人が、
演者スタッフ問わず注目を浴びているのは…まま今更な話だろうか。
モデル出身で着こなしのセンスは抜群、
長身で頼もしい背中も持ちながら、基本しっとり系の甘くて優しい知的な風貌、
とはいえ、基本どんなタイプでもどんとこいなマルチ名優、太宰治に、
鋭角的な美貌持ちでありながら活劇格闘は何でもこなし、
やや短気でもあるせいで“俺様系”と誤解されがちだが、
実際は料理好きで世話焼きお兄さんな、ハリウッドの活劇畑の第一人者、中原中也。
若いのに寡黙で重厚なとまで評されることがある、
憂いの横顔が魅力の貴公子…というのがファンの間での二つ名なものの、
実際は最近生えた?弟が可愛くって仕方がないらしい、舞台俳優の芥川龍之介。
そして、そんな頼もしいお兄ちゃんたちに構われまくっている、
銀髪に宝石のような双眸をした、それはそれは可愛らしい風貌をしつつ、
戦隊ものなどのスーツアクターを極めるのが目標な中島敦くんという、
何とも眼福な青年たち4人であり。
そもそもの原作に集ってた主役格の4人の美形たちに、
それぞれ個性的であるところまでもが沿うていたところは奇跡としか言いようがなく。

 「最近は敦くんも役名をちゃんと呼べるようになってきたねぇ。」
 「……もう1年近くもかかってますもの。//////」

いかにもな二枚目でありながら飄々とした雰囲気で
悪く言ってつかみどころのない男だが、
知啓豊かにして状況の把握力と鋭い機転から繰り出される奇策は外れたことがない、
若き主導者の祓咒師、鎮冥や、
若いのだか壮年なのだか、年齢不詳でもしかして人外との噂も絶えない、
精霊や呪骸の巣窟でもある禁足地に、烏や大狗の傀儡を従え住まう赤毛の総帥、槇の中将。
涼やかな黒髪もようよう映える静謐な青年で、
父親が御神木の精霊であるらしき、
蘇芳家の秘匿児にしてのちには鎮冥の補佐を務める身となる鵺に、
こちらも年齢不詳ながら、槇の中将の秘蔵っ子で
銀の髪にアメジストと琥珀の瞳という幻想的な風貌と裏腹、
様々な咒を操るも、何も持たない素手の一閃で人を刻める鬼の子の暁と。
どれもが一癖も二癖もありそうないわくつきのキャラクター達を
それぞれが見事なまでに再現しており。
負世界勢力との対峙の中、見せ場となろう戦いの場をいくつも乗り越え、
時に心身ともにひどく傷つきつつも不敵に笑って進み続ける剛の者たち
…という派手で豪胆なプロフィールが、
それぞれへジャストフィットしていた奇跡のキャスティング。
現在ただ今は劇場版の撮影中で、
原作のほうも後日譚編のスピンオフが連載中だそうなので、
好評ならばドラマも続くやもしれないのだとか。
まあ、公開されるのはやや先の話だし、
こういうものの人気や熱狂度は水物なので、
先の話はどうなることやらじゃあるのだが。

「あれ?」

気を回してかお茶を淹れてきた敦がトレイをおいた先、
財布か何か取り出した時に一緒に飛び出したのか、
ローテーブルにぺたりと置かれてあったカードに気づいて手に取る。
それを関心マシマシでじっと眺めていた彼だったが、

 「龍くん、免許持ってるんだ。」

免許と言えばまま自動車の運転免許で、
昨今は某マイナカードへの登録が進められていて、
こんな格好で気づくということもなくなるのだろうが。
それ以上に、

「へえ?」
「なんだか意外だねぇ。」

居合わせた中也や太宰もそんな声をだし、
敦にしてもやはり意外だと思ったからそんな風に声をかけたのだろう。
すぐ側の席に着きつつ、はいと敦から差し出されたそれへ手を伸べる持ち主に向け、

「いつも事務所が用意した、運転手付きの車に乗ってる印象が。」

そんな風に中也が口にしたのへはあとの二人も同感だったようで。
遠い血縁に梨園の有名どころがいるというだけあってか、
それは凛々しい面差しや、寡黙で表情の薄い雰囲気が、
どこかお堅い佇まいとなってその存在感へと滲み出し。
そこから 庶民とかとは一線画したような、生活感の薄い印象のする芥川でもあって。
なので、移動にはお抱え運転手付きの車で…というイメージがついつい沸いた。
だが、

「何言ってますか。」

ここにだってJRとマイクロバスで来てるでしょうにと、当人が苦笑する。
とはいえ、言われている意味合いも判らないではないようで、
普段の装いもシックなファッションで固めていて通常運転、
スポカジやらちょっと砕けた普段着風のいでたちでいると、
“えっ?”とばかりに驚かれたりするのも常の事。
主家とは縁を切っているとはいえ、
それでもあの太刀川屋のという色眼鏡がついて回る身だったせいか、
基本、誰の前でも恥ずかしくはないようにという躾をしっかと受けていて。
その余波か、どうしてもお行儀の良さというか堅苦しい印象が拭えない青年でもある。

 “おまけにちょっとアンニュイな色香のある美人さんだしねぇ。”

こらこら、誰のつぶやきですか、これは。(笑)
仲間たちからの感慨へ小さく苦笑を見せて、

「まあ、まだ車は持ってませんが。」

撮影が始まる前に教習所に通ったんですよ、
身分証代わりに持ってたほうがいいかなってと、
そんな風に続ける彼で。
だが、

「何言ってんだ。ほぼ毎年海外公演でパスポート持ってようによ。」

身分証ならそれで間に合うだろうと苦笑をした中也もまた、
海外にいるほうが長い身で、
運転免許も持ってはいるが、身分証では一番ものをいうパスポートを持っている身。

「僕も、高校3年の時の修学旅行が台湾だったんで持ってます。」
「おや、じゃあ持ってないのは私だけか。」
「はい?」

太宰がそう言って笑ったのが、あとの面々への爆弾になったりする。

「え? モデルさん時代にも海外行ってないんですか?」
「うん。」

綺麗な所作で湯のみを持ち上げ、
上手に淹れられた煎茶を飲みつつ、呆気なくも頷いて見せ。

「ファッションモデルとかなら、
 有名なデザイナーのコレクションとかで
 海外のホールにも行くんだろうけど。」

そういうのには出たことないし、
ドラマの撮影も今ンとこは国内ばかりだったしねと
悪びれもしないで応じた彼で。

 でも車の免許は持ってるよ。
 運転は下手だがな。
 あ、酷い。

そこは確認済みなのか、中也がまぜっ返して見せるのまでがお約束。
パスポートの話はともかくとし、

「敦くんは取らないの? 運転免許。」
「えっと…。」

18歳なので一応は取得可能な年齢だ。
お出かけも好きそうな彼だし、車の運転とかやってみたがりそうなのにと太宰が訊けば、

「両親が、お前は方向音痴だから車の運転には向いてないって。」
「おや?」

うだうだした運転をしかねないので、周りのドライバーに迷惑が掛かろうって。
なので免許は取るなって言われたんですよねと、
ご本人は不服ならしく、むうと柔らかそうな頬を膨らませる。
免許がどうこうという話をしているのに親からの子ども扱いへむくれて見せるこの無邪気さよと、
呆気にとられたそのまま、苦笑を咬み潰したり、こらえきれずに吹き出したりしかかった兄たちへ、
白い少年がむむうとますますと膨れた姿が、春の日の中で柔らかく照らし出されていた。





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